TechCrunchに”Netflixの顧客の半分近くがDVDレンタルからネット上のストリーミング視聴へ移行”という記事が出た。
これまでにもNetflixについてはBlogでも書いてきたが、これは非常に興味深いし、様々な示唆を含んでいる。
そもそもNetFlixは郵便でDVDがレンタルできる定額サービスで、会費を払い続けている限りは延滞料金が発生せず、WEBで注文すれば最新のDVD(Blu-Rayも)が借りられる。
2年ほど前に彼らは突然ネットでもストリーミングで映画が見られるサービスを始めた。面白いと思ったのはPC上のWEBブラウザに限らず、専用端末をTVに接続して見られるようにしたこと。当初はROKUという知名度の低いアメリカのベンチャーが端末を出したのだが、値段が僅か$99だったこともあって、そこそこ話題になった。
面白いのはここからで、ROKUである程度ノウハウを貯めたと思ったら、今度は違うメーカーの端末に展開を始めた。確か最初はLGのネット接続対応BDプレイヤーだったと思うが、ROKUで培ったUIやUexをそのまま横展開してしまった。ROKUが怒るんじゃないかと思ったが、勢いは止まらず、そのままXBOX360やSamsungのBDプレイヤーへ展開が続き(既にLGもSamsungも対応BDプレイヤーは2世代目になっている)、とうとうPS3やソニーのBDプレイヤーまで広がり、先のCESでは中国のハイアールまでが対応してしまった。
そしてNetflixは上場企業として利益を出し続け、新サービスには200億投じたという噂も聞いたことがあるが、それに見合うだけのユーザーを獲得しつつある。今回の発表では半数のDVDレンタル会員がネットストリーミングを使っているというのだから、十分に投資の意味があっただろう。
なぜそれができたのか。
1. ハードウエアの初期展開
まずは機動力のあるベンチャーを味方につけて戦略的な価格で販売した。しかもTVに接続してDVDプレイヤーと同様な操作感で使えるようにして、ネットストリーミングの障壁を一気に下げた。UIもなかなか良くできており、シンプルで誰でも使える。自分のネット上にあるIDとハードウエアを紐づける手順もここで確立された。
先にも書いたとおり、UIもUexもこの段階でほぼ確立されていて、それをその他の端末に横展開したのである。
2. 対応ハードウエアの拡大
ネット対応AV家電はこのところ当たり前になってきた感があるが、2年前とはいえ当時は成功事例に乏しかった。AppleTVもうまくいってないとみんな慰めあっていた感すらある。ところがNetFlixはそれをやってのけた。
詳細は分からないのであくまで推測だが、新たに対応を検討するハードウエアメーカーに対してROKUで確立したUI/Uexをリファレンスデザインとして提供できたことも大きな要因だったと思う。実装する側は時間を使わずして実現が可能だったはずだ。
さらに面白いのはSOC(Software on Chip)のアプローチをとったことだろう。BroadcomのチップにNetflixを入れてしまうことで、さらにハードウエアメーカーの実装の手間を省き、そのチップを導入すればサービスまで付いてくるという状況にしてしまった。
3.ユーザーの支持とアップデートの繰り返し
もともとNetflixはDVDレンタルで成功して一定規模の会員を持っていたことも大きかった。既存ユーザーに新サービスとして紹介すれば新規事業とはいえ成功の確率は高くなる。ユーザーに頻繁にDMを送り(私のところにも何度も届いた)、画質のアンケートのメールを送り、ユーザーの満足度を常に気にしてきた。
さらにROKUを私が導入した当初はなかった機能がどんどん広がってきたことも特筆に値する。なんと途中からファームウエアがアップデートされ、HDでのコンテンツ視聴ができるようになったのだ。ハードウエアとストリーミングの両方の限界で、画質は720pHDと限られているが、それにしても普通の地上波TV番組よりもはるかに美しい。私はHDストリーミングをすっかり気に入ってしまった。
4. コンテンツラインナップの拡充
これもまた努力の賜物なのだが、開始当初は古いタイトルばかりであんまり価値がないとすら言われていたストリーミングサービスだが、現在はそれなりに新しいタイトルまで導入が進んでいる。全てをストリーミングに対応させる計画があるとしたら大したものだと思うが、新作タイトルへの対応も機が熟したらやるのかも知れない。
5. UI/Uexの完成度とAPIの充実
先にも書いたが、これはほぼ当初から確立されていたのはすごいことだ。NetFlixのUIは派手ではないし、動いたりもしない。だが、ほぼどこに何があるかすぐにわかるし、操作も誰でもできる。またその分リモコンもシンプルで、上下左右のキーと決定ボタン、ホームボタンさえあればOKである。
このシンプルさを実現するための割り切りとして、ストリーミングのコンテンツの追加削除は本体側ではできず、新しいコンテンツを探したりリストに追加するのは基本的にWEBブラウザという仕様になっている。
偉いのはここからで、そのWEBで使われている機能をAPIとして公開してしまった。もちろん視聴はできないが、コンテンツを探すことも追加することも様々な方法でできる。iPhoneのアプリを検索すると多くのアプリがNetflixの操作ができるようになっており、極めつけはROKUのリモコンまでiPhoneアプリでできるようになっているのである。
昨日のiPadの発表を見たときにも思ったのだが、新しいものがユーザーに受け入れられるには相当な地道な努力が必要だ。水面下でデベロッパーを巻き込んだり、サービスやUIの完成度を高めることを何年もかけて実現するのである。Netflixもしかり。
ただし、何年も努力するモチベーションを維持するには、もともとのコンセプトやアイディア、戦略シナリオがしっかり描けていないと無理だろう。Netflixは私が見る限り、途中あまり軌道修正を行わなかったように思える。ベンチャーだからこそできる技なのかも知れないが、一貫性と継続性は新規事業にとって重要であることを再認識した。
追記)
この投稿を見た知人からTwitter経由で内部情報を入手した。私の推測が当たっていた部分と、新たな事実が判明した部分が両方。内容を補強するものとして掲載します。(一ノ瀬氏から掲載許可を頂いています)
@kichinose(http://twitter.com/kichinose)
NetFlixの知人に聞きました。Roku版の開発は9割方NFで実施、最後の最後になってRokuへ供給。
但し中核コードとUI権利はNFで保持。それをNFがSDK化して各メーカーへ提供、LGやサムソンのNF UIがRoku版とそっくりなのはそのため。
TiVo、XBOX360、Windows Media CenterはNFのSDK使わずに独自開発、これらのUIがRoku版等とは異なるのはその為。
昨年のクリスマス時期にリリースされた新製品(例:InsigniaのBDプレイヤー等)は新しいバージョンのNF SDKを採用、その為新機能(例:Instant Queue以外のリストへアクセス等)を実装
ちなみにInsigniaは米国電器販売チェーン「Best Buy」のプライベートブランド。
独自実装のXBOX360では、ストリーミング用タイトルの全てをブラウズし、Instant Queueに追加する等の機能を実装しており、全く更新の無いTiVo版よりもかなり高機能なNFプレイヤー。
このNYTの記事によるとNetFlixが一度断念した海外展開に今年後半再挑戦するが、今回はDVDレンタルはやらず、ストリーミングのみで国際展開する由。 http://tiny.cc/k6eGL

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